子宮内膜症とは

子宮内膜またはそれに似た組織が何らかの原因で、本来あるべき子宮の内側以外の場所で発生し発育する疾患が子宮内膜症です。20~30代の女性で発症することが多く、そのピークは30~34歳にあるといわれています。

子宮内膜症は女性ホルモンの影響で月経周期に合わせて増殖し、月経時の血液が排出されずに卵巣内に溜まったりするため、周囲の組織と癒着をおこしてさまざまな痛みをもたらしたりします。また、不妊症の原因にもなります。

子宮内膜は生理になると、はがれて出血します。この内膜が本来あるべき子宮以外に存在してしまうのが子宮内膜症です。
関連する疾患は、チョコレート嚢胞(チョコレート嚢胞)、子宮腺筋症などがあります。

卵巣チョコレート嚢胞

子宮内膜が卵巣内に存在するために、生理の際に出血した血液が行き場を失い、酸化してチョコレートのようなの嚢胞として溜まってしまうものです。卵巣内で炎症が起き、排卵に影響することもあるため、排卵障害といった不妊につながることもあります。
子宮腺筋症(しきゅうせんきんしょう)

子宮は月経・出産などで拡張・収縮したりする筋肉組織でもあります。通常、子宮内膜が存在するのは子宮の内側ですが、子宮の筋肉層の中に内膜が存在し増殖してしまうのが子宮線筋症です。痛みもより強い傾向があります。生理のたびに筋層内で出血し炎症を繰り返すために、経過とともに筋層が線維化し、子宮が肥大していくこともあります。

子宮内膜症の症状

月経期になると、子宮内膜から子宮を収縮させる「プロスタグランジン」の分泌が活発になります。このプロスタグランジンは子宮の収縮を促し、経血を体外へ排出させますが、同時に炎症や痛みを起こす物質でもあります。子宮内膜症の場合、内膜の総量が増加しているため、プロスタグランジンの分泌量も多くなり全身に様々な症状が現れやすくなります。

月経痛(生理痛)
過剰なプロスタグランジンの分泌により、子宮内膜の収縮活動が激しくなり痛みが強くなります。また、子宮外の内膜の出血により炎症が起きルため、生理が終わっても痛みが続くこともあります。子宮内膜症の9割の方に、月経痛(生理痛)が現れるとされます
頭痛、吐き気、嘔吐、下痢
これらの症状も、過剰なプロスタグランジンによって引き起こされます。また、子宮は腸のすぐ付近にあるため、過剰な子宮の収縮は同時の腸を刺激し、けいれんを引き起こし下痢を伴うことがあります。
排便痛、性交通、月経時以外の腹痛、腰痛
子宮に存在する内膜周辺に炎症が起こり、その部位を刺激されることにより痛みを感じます。
経血量の増加、レバー状の塊が混じる
子宮内膜症の場合、経血の量が増える場合があります。子宮内膜症とは子宮内膜が子宮筋層に入り込み繰り返し炎症を起こすと、やがて繊維化し子宮そのものも肥大化してきます。
月経不順
内膜症が卵巣に発生すると、発育する卵子に影響を及ぼし排卵が遅れるため(チョコレート嚢胞)、生理不順が起こりやすくなります。

子宮内膜症の原因

子宮内膜症のはっきりした原因はわかっていません。月経時に経血とともに子宮内膜組織が逆流してしまい、腹腔、卵巣内に定着するという説もあります。しかし、稀に胃や腸にも子宮内膜が発生することもあり、これ以外にも発症する原因はあると考えられています。

また、女性ホルモン(エストロゲン)との関連も指摘され、一生のうちの月経の回数が多いほどリスクも高まります。
近年、子宮内膜症は増加傾向にあります。昔は7人、8人兄弟が多かったように、女性の一生のうちに出産回数は現在よりも多く、月経の回数ははるかに少なかったのですが、晩婚化、少子化の傾向が進むにつれ子宮内膜症も増加していると考えられます。
子宮外に発生した内膜は月経とともに出血します。通常ならば経血として排出されますが、行き場を失った血液は組織内にとどまり、炎症を起こします。この炎症が生理痛を悪化させる原因にもなります。また、炎症が長期間続くと、卵管の癒着を起こし卵管障害を招いたり、卵巣内部に発生すると卵子の成長に影響を及ぼし排卵障害を招いたりと不妊の原因となってしまいます。

若い女性も注意!

子宮内膜症は20代〜40代に多いとされますが、近年は初潮年齢も早まっているため、10代の若い女性も注意が必要です。月経痛の影に内膜症が隠れている場合もありますので、生理痛は放置せず一度婦人科を受診することをおすすめします。

 子宮内膜症の検査は、超音波やMRI検査など病変部位を画像で確認して行います。初期の子宮内膜症の場合、内膜があまりに小さいと画像に映らず発見することはできません。このため、生理痛を鎮痛剤だけで対処し続けてしまうと、子宮内膜症が悪化してしまいます。また、子宮内膜症の進行は不妊のリスクも増加させる可能性もあります。

子宮内膜症の治療法

西洋医学での治療法は痛みを緩和するために鎮痛剤でする方法、ホルモン剤を使用し内膜の増殖を防ぐ、偽妊娠療法や偽閉経療法、手術で病巣を取り除く方法などがあります。
子宮内膜症は女性ホルモン(エストロゲン)刺激で進行します。このため、ホルモン剤はエストロゲンの分泌を抑える働きがあるものを用います。

薬物療法

鎮痛剤

ロキソニンやボルタレンといった鎮痛剤を使用します。あくまで痛みに対する対処法なので、内膜症の根本を解決するわけではありません。

偽妊娠療法(低容量ピル)

ルナベル・ヤーズ
エストロゲンとプロゲステロンを含む製剤です。本来、エストロゲンやプロゲステロンは卵胞の発育状況、排卵後の形成される黄体によって、月経周期の時期で分泌量が変化します。低用量ピルは服用することによって人為的にエストロゲン、プロゲステロンの濃度をコントロールすることにより排卵を抑えます。排卵させない働きがあるため、避妊薬でもあります。しかし、体内では一定のエストロゲン濃度を保つことが可能なため、子宮内膜症にも有効です。

ディナゲスト

比較的新しい黄体ホルモン製剤です。生理前にニキビや肌荒れなどが気になる方もいるかと思いますが、これは排卵後〜月経前までに分泌が多くなる黄体ホルモン(プロゲステロン)に男性ホルモンの活性化作用があるため。ディナゲストはこの男性ホルモンの活性化を従来の黄体ホルモン製剤より低く抑えられています。

偽閉経療法(GnRHアナログ療法)

疑似的に閉経と同じような状態を作り、エストロゲンの分泌を抑えます。このため更年期障害のようなのぼせや異常な発汗といった副作用の心配があります。長期的に続ける場合は、更年期以降に多い骨密度の減少といった心配もあるため、定期的に骨量を調べる必要があります。

ダナゾール療法

男性ホルモンと同じような働きを持つため、エストロゲンに拮抗し、子宮内膜を萎縮させます。副作用としては、体の男性化様の症状、声が低くなる、体毛が濃くなる、皮脂分泌が盛んになりニキビなどが現れる場合もあります。

手術療法

子宮内膜症の重症度、年齢、妊娠希望の有無によっても治療法が変わってきます。近年では腹腔鏡手術が発達し、お腹を切らずに手術することも多いです。

保存手術
子宮内膜症の病巣を取り除く、または周囲との癒着をはがすといったことを行います。
根治手術
重症の場合で妊娠を希望しない場合、子宮内膜症がガン化することもあるため、卵巣または子宮を全て取り除く場合もあります。

卵巣チョコレート嚢胞の手術と不妊のリスク

チョコレート嚢胞ができる部位「卵巣」は卵子の元になる原子卵胞が存在します。この細胞は新たに作られることはなく、閉経に向けて次第に現象していく細胞です。手術にともなって卵巣組織がダメージを受けてしまうと、残存する原子卵胞も消失してしまい、早期の閉経などにつながるリスクもあります。
卵巣は左右に2つありますが、両方の卵巣を全摘出を行なった場合は、卵子提供などを行わない限り妊娠することは不可能になります。
嚢胞摘出や焼灼術でも、場合によっては周囲の卵巣組織を損傷し、原子卵胞の減少を招くケースがあります。

1、卵巣摘出
2、囊胞摘出
3、囊胞壁焼灼
4、エタノール固定・吸引洗浄

上に行くほど卵巣のダメージは大きくなると言われていますが、卵巣摘出・嚢胞摘出は特に再発リスクは少なくなります。

漢方での子宮内膜症の対処法

漢方での子宮内膜症の原因とその対策

漢方と中医学では対処法が変わります。共通するのは子宮や卵巣などの瘀血(おけつ)、腹部の血行不良が該当します。また、水停・痰濁といった水分代謝の低下も原因の一つに含まれます。一般的な処方では、桂枝茯苓丸、桃仁承気湯などが腹部の血行不良に対応し、水分代謝を改善させるには、同じく桂枝茯苓丸や、五苓散、胃苓湯、六君湯などの構成生薬が含まれた処方が使用されることが多いです。

軽度の場合はこれらの処方で対応できることもありますが、重度の場合はより強い働きをもつ生薬・処方が必要です。

袪痰・活血化瘀

子宮内膜症で排出されずに体内にたまった血。中医学では「痰」、「瘀血」に分類されます。これらを取り除く漢方薬が去痰薬、活血薬に分類されます。また症状が強い場合、より作用の強い「破血薬」を用いることもあります。

代表処方・生薬
シベリア霊芝、桂枝茯苓丸、芎帰調血飲第一加減、山稜、莪朮、水蛭(スイテツ)など

※山稜(サンリョウ)、莪朮(ガジュツ)、水蛭(スイテツ)は、ごく一般的な処方には含まれませんが、中医薬ではより強い血行不良に用いる破血薬に分類される生薬です。

清熱解毒

子宮内膜症は慢性的に炎症が繰り返す状態ですので、漢方薬は炎症を鎮める処方を用います。

代表処方・生薬
五味消毒飲加減、金銀花、野菊花、蒲公英など

補血

血を補いホルモンバランスを安定させる方法です。

代表処方・生薬
婦宝当帰膠、当帰芍薬散、四物湯など

補血に分類される処方は、エストロゲンの分泌を促す働きも示唆する報告もありますので、体質をより考慮する必要があります。詳しくは漢方・中医学に詳しい専門家にご相談ください。

補腎

漢方・中医学では「腎」は生殖や免疫に関わる臓器と分類されます。これらのバランスを整えるのが補腎という方法です。生理周期が不安定という場合や、お子さんをご希望される場合にも用いる方法です。

代表処方・生薬
杞菊地黄丸、瀉火補腎丸、参茸補血丸、参馬補腎丸、双料参茸丸、二至丸、鹿茸、亀板、鼈甲など

不正出血が続く、貧血が心配なとき

子宮内膜症にともなう不正出血は、漢方では「血熱」と「脾不統血」の大きく2つのタイプに分類します。

血熱タイプ
体に過剰な熱がこもっている状態です。熱は体の様々な機能を亢進させ、同時に乾燥させます。この影響で血の流れが盛んになり、脈外に漏れやすくなると考えます。出血のタイプも鮮血で量も比較的多い、便秘、口渇、ほてり、脈拍が早いといった症状をともなうこともあります。黄連解毒湯や三黄瀉心湯といった体の熱を取り除く処方を使います。便秘がちな場合は熱がこもりやすくなるので、お通じを改善させて行くことも大切です。
脾不統血タイプ
漢方・中医学には、出血の原因の一つに「脾の統血作用の低下」というものがあります。五臓の中の「脾」は、現代でいう主に消化器系の働きに該当しますが、同時に「統血作用」といい、血が脈外へ漏れないように調整する働きも持っています。この統血作用を調整したい場合は帰脾湯、心脾顆粒、芎帰膠艾湯といった処方を使います。
また、出血の症状が強い場合は止血作用を持つ生薬、田七人参(別名:三七人参)を用いる場合もあります。

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