子供はとても元気で活発に行動しますね。こんな小さい体のどこにそんな体力があるのか本当に不思議なくらい。漢方ではこのような状態を「陽気」に満ちた状態、エネルギーが有り余っている状態と考えます。ちょっとしたことでも大喜びしますし、テンションも高いですからね。中には元気すぎて手をやくこともありますが…
こんな子供特有の元気いっぱい、陽気に満ちた状態というものも、交感神経を高ぶらせ興奮させやすい状態を作る一因にもなります。子供の夜泣き・神経症・おねしょは成長するまである程度は仕方がない、個性の範囲内と考えるべきものでもあります。多くは成長とともに落ち着いていきますので。漢方薬では無理に抑えるのではなく、成長を助けながら自然に落ち着かせていくというのが一番理想的かと思います。小建中湯はそんな子供の成長を応援してくれる処方です。

甘くて飲みやすい、小建中湯

効能・効果
体質虚弱で疲労しやすく、血色がすぐれず、腹痛、動悸、手足のほてり、冷え、頻尿および多尿などのいずれかを伴う次の諸症:小児虚弱体質、小児夜尿症、慢性胃腸炎、夜なき、神経質、疲労倦怠。

小建中湯は、桂皮(ケイヒ)、生姜(ショウキョウ)、大棗(タイソウ)、芍薬(シャクヤク)、甘草(カンゾウ)、膠飴(コウイ)という6つの生薬でできています。生薬名だと分かりにくいですが、小建中湯の構成生薬はほとんどが身近な食品や香辛料です。

  • 桂皮(ケイヒ)・・・シナモン
  • 生姜(ショウキョウ)・・・名前の通りショウガ
  • 大棗(タイソウ)・・・最近ではあまり見なくなりましたが、果物のナツメを乾燥させた物です。
  • 膠飴(コウイ)・・・水飴です。意外かもしれませんが、水飴も生薬なんですね(^-^;
  • 甘草(カンゾウ)・・・名前の通り甘味の強い生薬で、お菓子やジュースなどの甘味料に使われることもあります。

こういった身近な生薬に、補血や筋肉や筋の緊張をほぐす芍薬(シャクヤク)が配合されています。
桂皮やショウキョウには体を温め、風邪の引きがけのゾクゾクした寒気を改善させる働きがあります。漢方ではこの状態を、風寒表証と言いますが、まさに感染症の原因となる細菌やウイルスを体を温め発汗を促すことによって、体外に追い払おうというイメージです。風邪を引いてひどい寒気がして、一眠りして汗をかいたらスッキリした、なんていう経験がある方も多いと思いますが、まさにこの働きを狙ったものです。
また、「アイスを食べ過ぎるとお腹が痛くなる。」とお子さんに伝えることも多いと思いますが、冷たいものを摂りすぎると、筋肉が収縮したり、異常なケイレンを起こして腹痛が起きます。やっぱりこのような場合は、温めてあげることが大切です。脾(消化器系)は冷えに弱いので、桂皮(ケイヒ)、生姜(ショウキョウ)は胃腸を温め、機能を整えるという意味合いもあります。そこに、筋肉のこわばりや緊張をほぐす芍薬(しゃくやく)が加わります。

タイソウ(ナツメ)やコウイ(水飴)は主に脾(消化器系)の働きを高める作用を持ちます。
ナツメ、食べたことありますか?昔は庭の軒先きでよく見られましたが、ナツメを狙って鳥がやってきて、庭先にたくさんフンをするので、最近はもう切ってしまったという家庭も多いですね。
ナツメ、生のものはリンゴに似た味がします。甘くて美味しいです。
水飴もそうですが、この甘味というのは脾(消化器系)に作用しやすく、弱っているときは消化器系の「気」を補い、元気にしていくような働きがあります。

小建中湯は脾(消化器系)の働きを整える処方

生まれたての赤ちゃんは、母乳やミルクしか飲みませんが、成長とともにやがて歯が生え、固形物を食べられるようになってきます。ウンチも最初はゆるいですが、離乳食を食べれるようになってくると徐々に固形になってきますね。でもまだ未消化のまま残っていたりと消化できていない場合もありますが(^^;)
これは生まれたばかりの頃は胃腸が大人と同じように成熟してないので、食べ物を与えても消化が十分にできないためです。ちょっと食べすぎただけで嘔吐したり、下痢や便秘をおこしてしまいます。小建中湯はこんなお子さんの弱い胃腸を応援してくれる処方です。

小建中湯って胃腸薬じゃないの?夜泣き・神経症・おねしょに聞く理由

ここまでの話だと、胃腸を元気にする話しか出てきませんね、でも小建中湯には夜泣き・神経症・夜尿症(おねしょ)の効能も記載されています。胃腸にしか働かないように見えますが、このような理由があります。

大人と比べて体重の少ない子供は、冷たい飲食物や寒暖差の影響を受けやすく、体温も変化しやすいです。冷えるとトイレは近くなってしまいますし、体内の消化酵素も冷えると活性を失ってしまうので、体温をしっかり維持するというのは大切です。桂皮(ケイヒ)や生姜(ショウキョウ)などはお腹を温める働きがあり、この部分を助けてくれます。

また、睡眠は夕食を終えてちゃんと消化が終わってから、という流れが理想的ですが、胃腸の機能が未熟な子供の場合、消化をするに時間がかかります。胃腸の機能がまだ成熟し切っていない子供にとって、遅い夕食は睡眠の質を低下させます。未消化物がまだお腹の中にあると、体は消化を行おうとするので、深い睡眠の妨げになります。例えば歯ぎしり、これは睡眠が浅いときに起こることがわかっていますが、無意識に消化を促そうとする反応の表れでもあります。

漢方・中医学では未消化物は体に不調を起こす原因となる「湿熱」を発生させます。「湿」は体の中にたまった余計な水分で、下痢や嘔吐などの引き金になります。「熱」は上に昇りやすいという性質があるため、とくに頭部に熱がこもりやすく、この状態はとても交感神経が高ぶりやすく興奮しやすい状態を作ります。

興奮しやすいのは「肝」の異常

漢方・中医学でいう臓器の一つ、「肝」には「疎泄を主る」という働きがあります。これは他の臓器コントロールしたりスムーズに働けるようするという意味で、現代でいう自律神経の働きと類似しています。つまり現代でいう自律神経の乱れは、漢方・中医学の肝の乱れに相当します。

肝の乱れを招く原因はいくつかありますが、今回はテーマが小建中湯ですので胃腸との関係を強調します。
消化器系(脾)と肝の関係では、消化吸収は肝気の助けがあって行われます。脾の機能が弱って消化ができないと、行き場を失った肝気は好き勝手に暴走し、自律神経にも影響が現れます。小建中湯は胃腸の調子を整え消化吸収を促し、肝にしっかり仕事を与えることで暴走させないようにするとこで、自律神経の安定をはかります。

体を流れる気血水、これは流れている間は心配いりませんが、停滞するとやがて熱を持つようになってきます。熱はエネルギーですので、交感神経を余計に高ぶらせるようなイメージです。「肝火上炎」というのは、肝気欝滞がさらに進んで、「気の滞り+熱」を持ったような状態。この状態はイライラにさらに強いエネルギーが加わるので、より怒りっぽくなったり攻撃的になったりします。ここまでくると抑肝散や竜胆瀉肝湯などの漢方薬の適応となります。
抑肝散も子供の疳の虫、夜泣き、歯ぎしりなどに使う有名な処方ですが、小建中湯は脾(消化器系)の機能を補う抑肝散は、名前の通り「肝」の高ぶりを抑えるという働きで、同じような効能が記載されていますが、処方の働きは全く別の処方です。こちらはまた別の機会に詳しくご紹介したいと思います。

小建中湯が夜尿症(おねしょ)に効くもう一つの理由

睡眠中、消化が活発に行われていると睡眠が浅くなり、夢見が多くなりますから。お子さんはトイレに行く夢を見てしまったりと、おねしょしてしまうリスクは高くなってしまいます。小建中湯は消化器系(脾)の働きを高めることで深い睡眠を促すという働きも期待できると思いますが、おねしょはもう一つ別の働きが関係します。
人間は排泄のコントロールが苦手な時期があります。それは幼少期と老年期。
これは「腎気」働きと関係します。
漢方・中医学で「腎」は成長・老化を主る臓器です。そして気の働きの一つに「固摂作用」といい、体にとって必要なものをしっかり留めておくいう働きがあります。

赤ちゃんが排泄のコントロールがうまくできないのは腎気が充実していないため
老年期の尿漏れなどは、腎気が衰えてきたため

生まれて成長とともに腎気が充実してくると、固摂作用、排泄を我慢できる力が備わってきます。「気」とはエネルギーに該当するので、食べ物を消化吸収する消化器系(脾)の働きが関係します。小建中湯は消化器系(脾)の働きを高め「気」を作り出す働きを高めることで、おしっこを我慢する力を育てていきます。 「気」の働きは固摂作用のほかに免疫力に相当する働きも持ちます。脾(消化器系)が弱く「気」が作れない状態は、風邪をひきやすい、アレルギーといった体質に繋がるので、幼少期の胃腸ケアはとても大切です。

最近は塾や習い事で夕食が遅くなる場合も多いですね。夜泣き、疳の虫、夜尿症(おねしょ)でお悩みの場合は、夕食はなるべく胃腸の負担にならないように工夫する必要があります。とくに高タンパク・高脂肪のものは消化に負担がかかるので注意してください。
どうしても夕食が遅くなってしまうという場合は、漢方で消導薬に分類される(働きとしては消化剤に近いです)、晶三仙も役立つと思います。

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