葛根湯といえば、もしかすると日本で一番有名で身近な漢方薬かもしれません。カゼ薬なのに眠くならないというのも少ないですからありがたい処方です。漢方薬は副作用はないということで、気軽に利用する方も多いですが、これは大きな間違い。風邪や肩こりなどに使用されていますが、使い方を間違えるとかえって悪化してしまう場合もあるので注意が必要です。
カゼといえばまずは葛根湯という使い方もしている方も多いと思いますが、カゼにもいくつか種類があり、葛根湯は風寒表証という場合に用いる漢方薬です。
カゼには、どんなタイプがあるか、葛根湯はどんな時に用いると効果的か、葛根湯以外の風邪薬はどんなものがあるかをご説明します。

風邪の原因

現代医学ではカゼの原因はほとんどがウイルス、まれに細菌性のものがあります。
風邪を引くと病院に行って「抗生物質」を処方してもらうというのがありましたが、近年は、病院で抗生物質が処方される割合が減ってきています。
それは風邪の原因の多くはウイルスなので、これに抗生物質は効果がないため。また、風邪に有効な抗ウイルス剤もありません。
風邪を引いた時の1番の対処法はゆっくり休むことが一番です。風邪の症状のツライ症状を薬で和らげて、自分の免疫力で克服するしかありません。

また、周囲の人と同じように行動していたのにも関わらず、他の人は平気なのに自分だけ風邪を引いてしまったという経験がある方も多いです。
これは、自分の免疫力が関係します。疲労やストレスなどで免疫力が低下すると、ウイルスに対抗することができなくなり、感染してしまった結果です。

カゼは漢字で『風邪』と書きますが、これは風とともにやってきた邪気というもので、漢方の風邪(ふうじゃ)に由来します。風がウイルスのような、病気を引き起こすなんらかの原因を運んできたために感染してしまうという意味です。風は一部にとどまらずあちこち移動するという特徴もあります。

カゼの原因を漢方で考えると

もともと自然界に当たり前のように存在している自然条件、寒(寒さ、冷え)・熱(暑さ)・湿(湿気)・燥(乾燥)など。本来は悪いものではありませんが、自分の体調が悪かったり、過度に冷えたりした場合などに、体に悪影響を与える状態なったもの、漢方では、寒邪、熱邪、湿邪、燥邪と表現します。(厳密には暑邪もありますが、これは熱邪+湿邪のようなものですので割愛させていただきます)
カゼの原因は風がこのような邪気を連れてきたという考えから、風寒、風熱、風湿などが主な原因です。
燥邪は、カゼを引いたのをきっかけに何週間も咳だけ残ってしまうなど、カゼの後期に現れやすいです。
また、慢性的に免疫力が低下している状態が続いていると何度もカゼを繰り返しひきやすくなります。この場合は「衛気虚」と言い、体表のバリア機能が低下してる状態です。

カゼの症状の特徴に合わせ、漢方・中医学ではこの5つの邪気の関連を考え処方を選択していきます。

カゼの特徴ごとに分類すると

初期のカゼ

原因症状代表処方
寒邪ゾクゾクと悪寒がする、肩や背中がこわばる麻黄湯、葛根湯、桂枝湯
熱邪ノドが痛い、口が乾く、発熱銀翹散、天津感冒片、涼解楽、板藍根
湿邪ムカムカ、吐き気、体がだるい、下痢藿香正気散、勝湿顆粒、香蘇散

カゼを引くと、多かれ少なかれ発熱がおきますが、これは体温をあげ免疫の働きを活性化し、ウイルスや細菌に対抗するという目的があります。葛根湯などの寒邪に対応する漢方薬はこの体温をあげるという働きを促し、同時に「発汗」させる働きを持っています。汗をかくというのも体力を消耗しますので、あくまでカゼの初期に使用し、ジワリと汗をかいたら服用を中止するというのが本来の使い方です。発汗は体液を奪いますので、ご高齢の方に多い体質、陰虚(体の水分不足)の傾向にある場合はとくに注意が必要です。
発汗の働きは、

麻黄湯>葛根湯>桂枝湯

の順に強くなります。ドラックストアなどでご自分で処方を選択する場合、ご高齢者や妊娠中などで体力等に自信がない場合は、桂枝湯を選択するのが無難です。心配な場合は専門家にご相談ください。

熱邪に対応する漢方薬は、清熱解毒という働きをもつ生薬が多く含まれ、この働きは解熱作用や抗菌、抗ウイルス作用に該当します。強い炎症があるときに使います。カゼの初期でもすでに熱がある場合は、葛根湯よりも銀翹散が有効な場合が多くなります。

湿邪のタイプは体に余計な水分が過剰になったタイプ、とくに消化器系にこの症状が現れやすくなります。ノロウイルスや急性胃腸炎がこのタイプに該当します。胃腸の働きを整えながら、余計な水分を処理する生薬が多く含まれます。

中期のカゼ

カゼが初期で治りきらずにこじれてしまった時に使う処方。様々な症状がありますが、熱は下がったのに胃のムカムカだけしばらく続いたり、咳が残ったりするケースが多いようです。このような場合には、
小柴胡湯・・・カゼ後期の胃腸トラブル
麦門冬湯・・・ノドの乾燥やから咳
蘇子降気湯・・・慢性気管支炎
漢方では初期のカゼを表証、こじれてしまったカゼを裏証と呼びますが、こじれてしまった場合はこの処方と言うわけには行きません。数週間症状が改善しない場合は何らかの原因で抵抗力が落ちている状態ですので、一度ご相談せれることをオススメします。

カゼをひきやすい方の体質改善に

一年を通して何度もカゼを引いてしまうという場合、漢方の代表的な病証では「衛気虚」といい、体表の免疫力が低下しているような状態ととらえます。この場合に用いられる漢方薬は玉屏風散(ぎょくびょうぶさん)、衛益顆粒(えいえきかりゅう)が代表的な処方です。通常のカゼに使う漢方薬は即効性の高いものが多いですが、体質改善を行う漢方薬ですので衛益顆粒は少し長めに飲んでいくタイプの漢方薬です。

葛根湯の正しい使い方

葛根湯が適応となる場合は、カゼの初期でも本当にごくわずかな初期。カゼっぽいなと言うタイミングで購入しに行く頃には、服用のタイミングは過ぎてしまうことも多いと思います。常に用意しておいて、ゾクゾクとおかしいなと感じたときにすぐに服用できるようにしておくと効果が最も期待できます。そして、ジワリと汗を書いたら中止。その時点で葛根湯は飲む必要はありません。
慢性的な肩こりにで服用されているケースもありますが、これも注意が必要です。葛根湯に含まれる生薬、麻黄(まおう)にはエフェドリンと言う交感神経を高ぶらせ代謝を高める成分が含まれています。使用する上で以下の点にはご注意ください。

1.甲状腺機能亢進症の患者[甲状腺機能亢進症が悪化するおそれがある。]
2.高血圧症の患者[本剤には血圧上昇作用がある。]
3.心疾患のある患者[本剤には心刺激作用がある。]
4.糖尿病の患者[血糖が上昇するおそれがある。]
5.緑内障の患者[眼圧が上昇するおそれがある。]
6.前立腺肥大症の患者[排尿障害が悪化するおそれがある。]
交感神経を高ぶらせ興奮させる働きがあるので、カゼをひきやすいので予防のために服用したり、高齢者などの体力が低下している方が長期間服用を続けるのもお勧めできません。体力や免疫力をかえって低下させてしまう恐れがあります。

葛根湯などの漢方薬と市販の総合感冒薬(カゼ薬)等との併用は?

市販の総合感冒薬(カゼ薬)との併用は可能ですが、気をつけていただきたいことが何点かあります。市販薬の中には漢方薬の成分を抽出して配合されているものもあり、重複する可能性があります。

成分効能注意が必要な生薬
エフェドリン気管支拡張麻黄(まおう)
グリチルリチン抗炎症甘草(かんぞう)

また、総合感冒薬(カゼ薬)には解熱成分が含まれているものが多いですが、葛根湯、麻黄湯、桂枝湯などは体を温める働きです。一緒に併用してしまうと漢方薬の効果も弱まってしまう可能性も高いと思います。総合感冒薬(カゼ薬)はカゼを治す薬ではなく、あくまでカゼのつらい症状を抑える薬です。ある程度我慢できる範囲であれば、使用しないというのも選択の一つです。

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